痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 ついに覚悟を決め訪れた歯医者だ。
 しかし、ホームページはあえて見ずに来た。とにかく変な先入観も持ちたくなかった。ホームページに悪いことなど書くわけがない、爽やかと丁寧だけを売りにして歯科医院は怖くないですよアピールしかしないのだ。

 怖くないですよ、という時点で怖いと証明している。同じ鋭利なものを武器にする美容室がそんなことを謳わないじゃないか。歯科医院は怖いところなのだ。言うほどにうさん臭さが増す、百合はそう思った。

 だからと言って口コミを見て評判を知るのはもっと怖い。人の感覚はそれぞれだ。過去に通った歯科医院だって評判がいいと聞いて行ったのにあの始末だ。なにひとつ当てにできない。百合が信用できたのは冴子の言葉だけだ。

「優しいしお勧め」

 冴子がお勧めするなら信じよう、その気持ちだけでエレベーターに乗った。冴子がお勧めというから扉の前に立つ。ドキドキする胸を落ち着かせようと何度か息を整えているとピンポン、と軽快な音が鳴って百合は思わず悲鳴を上げた。

「ひゃ!」

 いきなり扉が開いた。開けたのはもちろん百合ではない。目の前にはとてもとてもイケメンの若い男性が立っていた。

 そのとてもとてもイケメンの若い男は百合をジッと見つめてくる。その目に見つめられる百合もまたその目を自然と見つめ返す……というか、固まってしまっただけなのだが。


「患者さん? 予約……では、ない? ですよね?」

 イケメンに問われて百合はそこでハッとした。
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