痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 イケメンの見つめる呪縛から解かれてホッとする反面問われた質問に震える。

「あ、あの、すみません。予約してません……」

 そこまで言って男性の背後に目がいって百合はまたもハッとする。

(こ……これは)

 受付ロビーに人けがない。
 百合は思った。ここは――人気がない歯医者ではないのか、と。


 時間は十七時半。
 百合のように社会人や学生が通うにはこの時間帯しか難しい。普通ならそういった年齢層で賑わっていてもいいようなものなのに、待合に人がいない。並べられたスリッパもきれいに隙間なく並べられているのをみるあたりおそらく中も誰もいないのだろう。

(ヤブなんじゃない? ここ、ヤブ医者なんじゃない? この人、顔だけで患者を誘ってるもぐりの医者なんじゃない!?)

 冴子がかっこいいと言っていただけある。
 スラッとして爽やかなイケメンだ。ストライプの薄いブルーのシャツを着ているがここに白衣を羽織るのだろうか。こんなかっこいい顔をした先生がいるなら足繁く通う女性は多いだろう。

 しかし、蓋を開けたらもぐり医者。待合がすべてを語っている。人気のない歯医者丸わかりではないか。

 顔に騙されて通ってみたものの口の中を荒らされてみんな通うことができなくなったのだ。そうに違いない、それ以外考えられない。今日は水曜日、休診日は木曜と聞いていたのに院内の様子がこれではほかに言い訳なんかないだろう。

 確信した百合はなんとかこの場を逃げるための口実を作ろうと必死になった。

 けれど心情と状況のパニックからまともな考えも浮かばず沈黙に負けて口走る。

「今日……お休みでしたか?」
 
 百合は目の前のヤブ医者(百合的に決定)に問いかけた。
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