痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 項垂れるように俯き落ち込む百合を黙って見つめる三嶌がいる。
 こんな風に露骨に態度に出す患者ばかりでもないが、抜歯を提案して誰しもが喜んで頷くわけがない。落ち込まれるのにはぶっちゃけ慣れっこである。

「どうして抜いたほうがいいかっていうとね?」

 そんな露骨に落ち込む百合を諭すように、三嶌が優しい声で話しかける。

「これみて? 笹岡さんのこの親知らず、斜めに生えて一部が埋まってるでしょ? 歯肉が半分隠れた状態だと歯ブラシもしにくいし、汚れがたまりやすくて歯肉が炎症しやすくなる。それに、嚙み合わせもうまくいってない」

 レントゲンを静かに見つめる百合の視線は暗い。理解しようとする気持ちは見えるけれど全然納得をしていないのだろうと、三嶌はそれをしっかりと感じ取った。

「笹岡さんはまだ二十代前半で若いし、年齢がいくほど歯も硬くなる。抜くならタイミングは大事です。同じ抜くなら回復力も高い若いうちがいい。この親知らずの今の状態と今後のリスクを考えたら放置よりは抜くメリットの方が高いと僕は判断します。でも――」

 そこまで言ったらようやく百合が視線を三嶌に向けた。

「歯を抜きます、わかりました……なんてすぐに納得しなくていいですよ。笹岡さんは歯医者も久しぶりっていうし、だいぶ怖がってたもんね」

(え)

「大丈夫だよ」

 三嶌がニコッと微笑む。

「いきなり抜こうなんて言われたら嫌だよね。怖い思いさせてごめんね。まずは先にかぶせを作るところから進めていきましょうか」

 ニコッと微笑んだ笑顔と三嶌の放つ優しい言葉に百合はその瞬間泣きたくなるような気持になった。
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