痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
「笹岡さん」

 名前を呼ばれて意識を取り戻す。レントゲンが映された液晶パネルをグイッと引っ張って三嶌がタッチペンで印をつけ始める。

「ここ、以前つけていたかぶせが取れた場所です。穴が開いてる状態がそのままはまずいのとかぶせもかなり古いのでもう一度型を取って新たに作り直すのがいいかなと思います。今虫歯も出来ていないのですぐに対処できるかと」

「そ、そうですか。良かったぁ……」

 わかりやすくホッとした百合に三嶌はニコリと目元だけ弧を描く様に緩めたのだが、マスクの下から冷静な声が落ちてくる。

「問題はこの歯の奥――ここ」

(え)

 赤色で丸く囲われた奥歯が痛みの原因だという。

「歯茎の腫れもここからきてる。こっちは少し虫歯にもなっているんだけど……この親知らずはもう抜いたほうがいいかなと思います」

「え!!」

「置いておいても問題はないけど……虫歯がこれ以上進行しないためと将来的に歯周病の原因にもなりかねない。現に歯茎の腫れもあるからこの腫れが落ち着いたところでまた悩まされると思います。何度もそれを繰り返すなら抜く選択をお勧めします」

(そ、そんなぁ……)

 ショックだった。
 その気持ちに嘘はない。けれど百合が受けたショックは歯を抜くことではなく、三嶌が歯を抜けと勧めたことだった。

(やっぱり、歯医者なんか嫌い……すぐ歯を抜きたがる。甘い声に騙されるところだった)
< 25 / 146 >

この作品をシェア

pagetop