痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 百合は三次元の世界でときめくのは慣れていない。いつもときめくのは二次元の世界だけだ。

(先生に変にときめくのはやたら現実離れした人だからなんだよ……)

 そう百合は思っていた。

 三嶌はいつでも百合に「大丈夫」と、声をかけてくれた。

 その言葉は実は百合にとっては究極の癒しフレーズでパワーワードだった。

 地味で目立たない百合はいつでも人一倍努力して影で頑張ってきたタイプだ。そんな自分のしていることはなかなか人の目に触れることがなく、当たり前にスルーされてきた。

 頑張る自分は認めてもらえないのに出来ていないとがっかりされる。
 
 誰も気にかけない、百合のしていることは気にも留めてもらえない。でも人並みに結果ばかり求められる、その理不尽さ。

 でもそれも”自分だから”と、なんとか納得させていた。


 ――誰も声をかけてくれない、寄り添われることに慣れていない。

 だから寄り添われたら……嬉しくなってしまった。

 それがたとえ、治療の一環だとしても。

(もう……本当にバカみたい。先生は患者相手だから言ってくれてるだけなのに。みんなに言っているよ、歯医者だもん! 大丈夫って宥めるのなんか常套句じゃん!)

 そう何度も自分に言い聞かせている。

 三嶌の言葉を真に受けるな、自分は患者として投げられている言葉なのだ、そう何度も……。

 けれど十五時を回ると痛みがひどくていちいち仕事の手が止まりだした。

「……」
 
 百合は迷った末にクリニックへの電話番号を押してしまった。
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