痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 百合は思うのだ。

(こんなの……知らない)

 こんなに苦しい胸の痛みは知らない、好きになるより諦めることがこんなに苦しいなんて。

 二次元の世界で恋をして泣く子たちはこんなに辛い思いをしていたのか、自分は何一つ知らずに共感したつもりになっていた。

 恋をしたことのない自分が、恋を分かった風にときめいてバカみたいだ。

 恋は、こんなに痛く苦しいものなのか。

 諦める恋は、こんなにも心引き裂かれるような辛い痛みに襲われるのか。

(知りたくなかった……こんなに辛いなら、治療なんか来ないで痛いままでよかった。痛み止めもいらない、もう、腫れて膿んで腐っていったほうがマシだったかもしれない)

 歯の痛みが治っても、百合の心に残される痛みはきっと癒えることはない。

 この痛みは……三嶌は取り除いてなどくれないのだから。

 触れられて傷つくなら、触れられないまま傷ついて痛い方がよかった。

 治っても痛いなら、治らないまま痛みを抱えている方がずっと誤魔化して生きていけるのに。

 痛みのせいにして……生きていけたのに。

 とたんに目の前に光が照らされて明るく真っ白になる。まぶしくて一瞬目を開けられなかったが、ゆっくりと瞼を開けると三嶌の瞳とぶつかった。
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