痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 見つめてくる三嶌に吸い込まれるように百合もその瞳を見つめ返していた。

 まだ明るさに目が慣れていないのか、見つめる視線の先の三嶌に慣れられないだけか。

 ぼうっとする脳内でただ見つめ返してくる百合に、三嶌はグローブを外してその手を伸ばしてきた。

 百合の目尻をそっと撫でる。その行為に百合はハッとして、そして自分が泣いていたことに初めて気づく。

 気づかぬうちに涙を伝いこぼしていたのだ。

「あ……」

「終わったよ。席、戻すね」

 椅子が揺れて百合はまだ自分の脳内も寝たままになっているのに戸惑った。「終わった」そう言った三嶌の言葉が頭の中で響いている。

(先生と私の関係もこうやって終わっていくんだ……)

 いろんなところが鈍く痛い。

 痛みを伴うのが現実なのだ。だから三次元は苦手なのだ。

 自分の感情を……お構いなしで突きつけてくるから。


「口、ゆすげる?」

 言われてまたハッとして紙コップを手に取り口に含んだが、感覚のない口元はぼんやりとして水を含みすぎてしまった。

「あ……」

 口元から水が零れ落ちる。

「すみませ……」

 言いかけた口元にタオルがフワッと覆った。

 マスクを外した三嶌が優しい瞳で見つめて口元を抑えるように拭いてくれる。

 とても近い距離だ、百合と三嶌の間にあるのは白いタオルだけ……そう錯覚しそうなほど近い。

 見つめ合うだけで百合の視界が歪み始める。タオルがゆっくりと口元から外されたと思ったら、そのまま三嶌の顔が百合に近づいて柔らかいものが押し付けられた。
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