痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
Treatment
「大丈夫ですか?」

 声をかけた患者、笹岡百合は驚くほど体に力を入れて怯えていた。

「だだだ、大丈夫だと思われます」

 歯医者は久しぶりかと問いかけたら数年ぶりだと言った。

(ブラッシングはちゃんとしている感じかなぁ、歯茎の腫れと五番のインレーが外れたのか……カリエスはなさそうだけど、このインレーはもう作り直した方がいいかな)

 三嶌は百合の口腔内をザッと見て判断しつつその震える体を見ながら様子を伺っていた。

(プルプル震えて取って食うわけじゃないのに怯えちゃって……かわいいなぁ~)

 基本処置中は目元をフェイスタオルで覆いタオルの端を首回りが濡れないように重ねて置くようにしているが、目元を隠されるのが苦手な患者ももちろんいる。これから始まる処置に怯えている彼女ももしかしたら嫌がるかな、そう思って目元を隠さない方がいいかと聞いたら百合は逆に三嶌の指示を仰いだ。

(こちらの意向を聞いてくる患者も珍しいな、周りの様子を伺って生きるタイプかな)

 三嶌はぼんやりとそんなことを思いながら見つめてくる百合を改めてジッと見つめた。
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