痛くしないで！～先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません！～

　思いやった言葉など……どれのことか。

　ありがとう、と感謝されることは日常ではあるがそれはどれも社交辞令の挨拶の延長のようなものになりつつある。

　医者は感謝される存在ではあるが、治せて当たり前な風潮だってある。そういう人種だ、どこか神にでもなったような存在である。

　それなりの努力と経験のもと、数々の診断とぶつかるうちに患者が症例として目に映るようになる。人相手なのに、人ありきの話なのに不思議なもので。いつしか目の前にいるのは患者……ではなくなっていたのか？　そんな衝撃を受けてしまった。

　それは百合がこぼした”思いやり”の言葉で気づかされる。

　思いやりなど、どれほど持ち合わせて目の前の診療に向き合っていただろうか。
　医師として貢献するようになって数年、大学病院から独立して開業して気づくと三年。患者はついた、医師として自分が確立してきたのもわかる。だからこそ見失っていた。

　初心の気持ち。
　医師として免許を取得したときに自分は……誰よりも患者に寄り添える医者でいよう、そう思っていたことを。