痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 両手首を掴まれて視界が三嶌の手によって開かれると目の前に三嶌の端正な顔が飛び込んできて百合の頬は勝手に火照る。

「こんばんは」

「こ、こ、こんばんは」

 ただの挨拶、なのになぜこんなに甘く響くのか。
 三嶌が発する言葉は挨拶だって乙女をときめかせる甘い言葉に変わってしまうのか。百合はもう耳の鼓膜と脳みそが狂いだしてるのを実感している。
 
 三嶌は百合の手首を掴んだまま顔を覗き込んできて相変わらずの優しい声で囁くように言ってくる。

「待ってたよ、時間ぴったりに来るんだね。もっと早く来てくれたらいいのに」
 
 セリフもいちいち甘い。もうどこもかしこも甘くて百合の脳内がふつふつと煮立つようでその甘さにデロ~ッと溶け出しそうである。

「す、すみません、お、遅くなりました」

 別に百合は予約時間に遅れてはいないのだが謝った。
 見つめられてそわそわしていると三嶌が片方の手をそっと離すとその手がそのまま百合の頬に触れてきて百合の体が跳ねた。

「ひゃ!」

「少し腫れちゃったね、痛い?」

 撫でるように右下をさすられて身がよじる。

「いいい、痛くはないです、平気です!」

「そう、良かった。奥、おいで?」

 そのままグッと引っ張られ百合は気づいたら診察室のチェアーの上に座らされていた。
< 90 / 146 >

この作品をシェア

pagetop