君と紡いだ奇跡の半年
次のステージは、夏の合同ライブフェスだった。
市内外から集まる学生バンドが出演する大きなイベントで、俺たちがここに出られるのは本当に奇跡のようなことだった。
「ここ……すげぇな……」
会場の規模に、真が思わず息を飲む。
「客席、何百人いるのかな……」
紗希の声も少し震えていた。
確かに、これまでのライブとは桁違いだった。
でも、不思議と俺の心は落ち着いていた。
(この瞬間を全力で味わう——それだけだ)
リハーサルが終わり、控室で出番を待つ間、真がそっと口を開いた。
「湊」
「ん?」
「最近さ……ほんと、すげぇなって思うんだよ。お前、前よりもずっと強くなったよな」
「俺が?」
「うん。なんか……背負ってるはずなのに、全然ブレねぇ。俺だったら怖くてたまんねぇと思うのに」
その言葉に、一瞬言葉が詰まった。
(真は知らない。俺がもう一度この時間を生き直してることなんて)
「……ありがとな。お前が支えてくれてるからだよ」
そう返すと、真は少し照れくさそうに鼻をこすった。
「おう。ま、紗希もいるしな!」
隣で紗希も微笑んでうなずいた。
「私も、湊と真がいるから頑張れてるよ」
控室の中の空気が、ゆっくりと温まっていく。
この2人とだから、ここまで来られた。
*
ついに出番——。
ステージに立つと、客席の熱気が波のように押し寄せてくる。
ライトが俺たちを照らし出し、司会の声が響いた。
『続いては、FIRE FLAME! 皆さん、盛り上がっていきましょう!』
拍手と歓声が一斉に湧き上がる。
「——行くぞ!」
俺が叫ぶと、真と紗希が同時に頷いた。
イントロが流れ出し、俺たちの音が夜の会場に鳴り響いていく。
『限られたこの時間を——今、全部燃やして歌うよ』
紗希の透き通るコーラスが重なり、真のベースが力強くリズムを刻む。
観客たちも手を振り、声を上げて応えてくれた。
この一体感——これが音楽だ。
サビに入る頃には、緊張なんて完全に吹き飛んでいた。
『たとえ終わりが来ても——君とのこの瞬間は永遠になる』
全力で歌い切ると、割れんばかりの拍手と歓声が会場を包んだ。
「——ありがとう!!!」
マイク越しに叫ぶ俺の声が、夜空に溶けていった。
*
控室に戻ると、3人ともしばらく言葉を失っていた。
「……やばかったな」
真が最初にポツリと呟いた。
「最高だったよ!」
紗希が目を潤ませながら微笑む。
「……うん。本当に、最高だった」
俺は静かにそう答えた。
そして心の中で、もう一度強く決意する。
(残された時間は少ない。でも、まだ終わらせない。もっと前へ——もっと、もっと)