君と紡いだ奇跡の半年




 次のステージは、夏の合同ライブフェスだった。

 市内外から集まる学生バンドが出演する大きなイベントで、俺たちがここに出られるのは本当に奇跡のようなことだった。

「ここ……すげぇな……」

 会場の規模に、真が思わず息を飲む。

「客席、何百人いるのかな……」

 紗希の声も少し震えていた。

 確かに、これまでのライブとは桁違いだった。

 でも、不思議と俺の心は落ち着いていた。

(この瞬間を全力で味わう——それだけだ)

 リハーサルが終わり、控室で出番を待つ間、真がそっと口を開いた。

「湊」

「ん?」

「最近さ……ほんと、すげぇなって思うんだよ。お前、前よりもずっと強くなったよな」

「俺が?」

「うん。なんか……背負ってるはずなのに、全然ブレねぇ。俺だったら怖くてたまんねぇと思うのに」

 その言葉に、一瞬言葉が詰まった。

(真は知らない。俺がもう一度この時間を生き直してることなんて)

「……ありがとな。お前が支えてくれてるからだよ」

 そう返すと、真は少し照れくさそうに鼻をこすった。

「おう。ま、紗希もいるしな!」

 隣で紗希も微笑んでうなずいた。

「私も、湊と真がいるから頑張れてるよ」

 控室の中の空気が、ゆっくりと温まっていく。

 この2人とだから、ここまで来られた。



 ついに出番——。

 ステージに立つと、客席の熱気が波のように押し寄せてくる。

 ライトが俺たちを照らし出し、司会の声が響いた。

『続いては、FIRE FLAME! 皆さん、盛り上がっていきましょう!』

 拍手と歓声が一斉に湧き上がる。

「——行くぞ!」

 俺が叫ぶと、真と紗希が同時に頷いた。

 イントロが流れ出し、俺たちの音が夜の会場に鳴り響いていく。

『限られたこの時間を——今、全部燃やして歌うよ』

 紗希の透き通るコーラスが重なり、真のベースが力強くリズムを刻む。

 観客たちも手を振り、声を上げて応えてくれた。

 この一体感——これが音楽だ。

 サビに入る頃には、緊張なんて完全に吹き飛んでいた。

『たとえ終わりが来ても——君とのこの瞬間は永遠になる』

 全力で歌い切ると、割れんばかりの拍手と歓声が会場を包んだ。

「——ありがとう!!!」

 マイク越しに叫ぶ俺の声が、夜空に溶けていった。



 控室に戻ると、3人ともしばらく言葉を失っていた。

「……やばかったな」

 真が最初にポツリと呟いた。

「最高だったよ!」

 紗希が目を潤ませながら微笑む。

「……うん。本当に、最高だった」

 俺は静かにそう答えた。

 そして心の中で、もう一度強く決意する。

(残された時間は少ない。でも、まだ終わらせない。もっと前へ——もっと、もっと)
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