君と紡いだ奇跡の半年


 準グランプリの喜びが冷めやらぬまま、俺たちは夜遅くまでファミレスで打ち上げをしていた。

「湊、マジでやったな!」

 真がテンション高く乾杯のコーラを掲げる。

「準グランプリだなんて……ほんと夢みたいだよね!」

 紗希も笑顔を弾けさせていた。

「いや、二人のおかげだよ。みんなで作った曲だからこそ、ここまで来れたんだと思う」

 俺は自然と口元が緩んでいた。

「でも次は優勝だな。もう見えたろ? 俺たちまだ伸びるぞ」

 真の前向きさは、いつも場を明るくしてくれる。

「うん、もっともっと上手くなりたい」

 紗希の瞳もキラキラと輝いていた。

(ああ——この時間が、こんなにも愛おしい)

 本来なら、もう諦めていたはずの景色。

 でも今の俺は、あの絶望の先にこんな幸せがあることを知っている。

 それがたまらなく嬉しかった。



 帰り道——

 紗希と二人で駅まで歩く。

 夜風が少し冷たくて、紗希はそっと自分の腕をさすった。

「寒い?」

「うん、ちょっとだけ」

 俺は迷わず、自分のジャケットを脱いで紗希の肩にかけた。

「え……いいの?」

「風邪ひくと困るからさ」

 紗希は少し驚いた顔をして——すぐに柔らかく微笑んだ。

「……ありがとう、湊」

 心臓がドクンと鳴る。

 この距離、この空気感——前の時間軸でも、実は何度も感じていたはずだった。

 でも俺は、怖くて踏み出せなかった。

 だから今度こそ、少しずつでも前に進もうと決めていた。

「紗希——」

「ん?」

「……もしさ、もっと先の未来でも、こうして音楽続けていけたら……嬉しいと思ってる」

 紗希は少しだけ目を見開いて、そして頷いた。

「うん。私も、同じ気持ちだよ」

 胸の奥がじんわりと温かくなった。

 まだ『好き』とは言えない。でも、確かに今、俺たちは距離を縮めていた。

(これでいい——ゆっくりでも、しっかりと)



 翌日——

 学校に行くと、クラスメイトたちが口々に祝福してくれた。

「準グランプリだって!? すごすぎる!」

「やっぱお前ら、レベル違うよ!」

「次のライブ絶対行くからな!」

 笑顔で声をかけられ、俺は何度も頭を下げた。

「みんな、ありがとな!」

 真も紗希も、照れながら笑っていた。

 こうして俺たちのバンドは、学校でも少しずつ知られる存在になっていった。

(俺が選んだ、このやり直しの半年——間違ってなかった)

 でも——。

 この幸せの裏側で、少しずつ忍び寄る影も感じ始めていた。

(残された時間は、確実に減っている——)

 だからこそ、俺は止まらなかった。

 次へ、次へ——この最高の時間を、もっともっと積み重ねていくために。
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