君と紡いだ奇跡の半年
準グランプリの喜びが冷めやらぬまま、俺たちは夜遅くまでファミレスで打ち上げをしていた。
「湊、マジでやったな!」
真がテンション高く乾杯のコーラを掲げる。
「準グランプリだなんて……ほんと夢みたいだよね!」
紗希も笑顔を弾けさせていた。
「いや、二人のおかげだよ。みんなで作った曲だからこそ、ここまで来れたんだと思う」
俺は自然と口元が緩んでいた。
「でも次は優勝だな。もう見えたろ? 俺たちまだ伸びるぞ」
真の前向きさは、いつも場を明るくしてくれる。
「うん、もっともっと上手くなりたい」
紗希の瞳もキラキラと輝いていた。
(ああ——この時間が、こんなにも愛おしい)
本来なら、もう諦めていたはずの景色。
でも今の俺は、あの絶望の先にこんな幸せがあることを知っている。
それがたまらなく嬉しかった。
*
帰り道——
紗希と二人で駅まで歩く。
夜風が少し冷たくて、紗希はそっと自分の腕をさすった。
「寒い?」
「うん、ちょっとだけ」
俺は迷わず、自分のジャケットを脱いで紗希の肩にかけた。
「え……いいの?」
「風邪ひくと困るからさ」
紗希は少し驚いた顔をして——すぐに柔らかく微笑んだ。
「……ありがとう、湊」
心臓がドクンと鳴る。
この距離、この空気感——前の時間軸でも、実は何度も感じていたはずだった。
でも俺は、怖くて踏み出せなかった。
だから今度こそ、少しずつでも前に進もうと決めていた。
「紗希——」
「ん?」
「……もしさ、もっと先の未来でも、こうして音楽続けていけたら……嬉しいと思ってる」
紗希は少しだけ目を見開いて、そして頷いた。
「うん。私も、同じ気持ちだよ」
胸の奥がじんわりと温かくなった。
まだ『好き』とは言えない。でも、確かに今、俺たちは距離を縮めていた。
(これでいい——ゆっくりでも、しっかりと)
*
翌日——
学校に行くと、クラスメイトたちが口々に祝福してくれた。
「準グランプリだって!? すごすぎる!」
「やっぱお前ら、レベル違うよ!」
「次のライブ絶対行くからな!」
笑顔で声をかけられ、俺は何度も頭を下げた。
「みんな、ありがとな!」
真も紗希も、照れながら笑っていた。
こうして俺たちのバンドは、学校でも少しずつ知られる存在になっていった。
(俺が選んだ、このやり直しの半年——間違ってなかった)
でも——。
この幸せの裏側で、少しずつ忍び寄る影も感じ始めていた。
(残された時間は、確実に減っている——)
だからこそ、俺は止まらなかった。
次へ、次へ——この最高の時間を、もっともっと積み重ねていくために。