君と紡いだ奇跡の半年


 全国大会まで残された期間は、わずかひと月だった。

 俺たちは今まで以上に音を磨き上げた。

 朝も放課後も、休日も——毎日が練習だった。

「イントロの入り、もう少しだけタメ作っても良いかも」

 紗希がヘッドホンを外して提案する。

「お、確かに。会場全体の空気掴みやすくなるな」

 真が即座に合わせる。

「じゃあもう一回合わせよう」

 俺の声に合わせて、また一から音が重なっていく。

 この繰り返しが、たまらなく愛おしかった。

(ここまで辿り着けたのは、きっと——最初のあの日から何かが繋がっていたんだ)

 何度も死にかけた俺が、今こうしてギターを弾いている。

 その事実だけで、胸が熱くなる。




 全国大会の本番が近づくにつれて、俺の体はゆっくりと悲鳴をあげ始めていた。

 練習が終わるたびに、心臓の鼓動がいつもより早くなる。

 夜になると頭痛が長引き、吐き気に襲われる日もあった。

 けれど、それでもステージに立つ覚悟は揺るがなかった。

(あと少しだけ……あと少しだけ頑張らせてくれ——)

 放課後の音楽室——

 紗希が俺の顔色を心配そうに見つめてくる。

「湊……最近、顔色悪いよ。本当に、大丈夫?」

「平気だよ。ちょっと疲れが溜まってるだけ」

 毎回、そう答えてきた。でも紗希は、もう薄々気づいているのかもしれなかった。

「……無理だけはしないで。本当に、倒れたら嫌だから」

 俺は微笑んだ。

「ありがとう。紗希がいてくれるから、頑張れるよ」

 それでも、胸の奥では焦りが募っていた。

(今度の全国大会が終わったら……もう限界が来るかもしれない)



 夜、布団の中。

 静まり返った部屋に、機械音のように自分の心臓の音が鳴り続けていた。

(……怖いな)

 普段は平然を装ってきたけれど、本当は誰よりも恐れていた。

(もうすぐ、この時間も終わるんだ——)

 けれど、その恐怖すらも、ステージに立つことで紛らわせてきた。

 音楽が、俺を生かしてくれている。

 全国大会——それが、俺の最後の舞台になるかもしれないと、薄々感じていた——。





 そして——全国大会当日。

 巨大なホールの前に立ち、俺たちはそのスケールに圧倒されていた。

「……すげぇな」

 真が思わず呟く。

 観客席は何千人も入る巨大ホール。

「緊張してきた……」

 紗希も小さく肩を震わせている。

 けれど——俺の中は静かだった。

「大丈夫。ここまで来たんだ。俺たちらしく、全部出し切ろう」

 紗希が俺の言葉にうなずき、そっと手を握ってくる。

「湊……ありがとう」

 真も大きく深呼吸して笑った。

「よし、最後まで暴れようぜ!」



 控室の待機時間——

 俺はそっとスマホを開いた。

 グループチャットには、クラスメイトや先生、家族、そして町の仲間たちからの応援メッセージが溢れていた。

【湊、頑張れ!】
【みんな応援してるぞ!】
【最後まで楽しんでこい!】

 画面を見ながら、目頭がじわりと熱くなる。

(ありがとう……全部、背負って歌うよ)



 いよいよ出番が告げられた。

 ホールの奥から、司会の声が響く。

『続いては——熊本代表、FIRE FLAME!!』

 観客席から大きな拍手が沸き起こる。

「行こう」

「おう!」

「……うん!」

 ステージのライトに包まれながら、俺たちはゆっくりと歩き出した——。
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