君と紡いだ奇跡の半年
全国大会まで残された期間は、わずかひと月だった。
俺たちは今まで以上に音を磨き上げた。
朝も放課後も、休日も——毎日が練習だった。
「イントロの入り、もう少しだけタメ作っても良いかも」
紗希がヘッドホンを外して提案する。
「お、確かに。会場全体の空気掴みやすくなるな」
真が即座に合わせる。
「じゃあもう一回合わせよう」
俺の声に合わせて、また一から音が重なっていく。
この繰り返しが、たまらなく愛おしかった。
(ここまで辿り着けたのは、きっと——最初のあの日から何かが繋がっていたんだ)
何度も死にかけた俺が、今こうしてギターを弾いている。
その事実だけで、胸が熱くなる。
*
全国大会の本番が近づくにつれて、俺の体はゆっくりと悲鳴をあげ始めていた。
練習が終わるたびに、心臓の鼓動がいつもより早くなる。
夜になると頭痛が長引き、吐き気に襲われる日もあった。
けれど、それでもステージに立つ覚悟は揺るがなかった。
(あと少しだけ……あと少しだけ頑張らせてくれ——)
放課後の音楽室——
紗希が俺の顔色を心配そうに見つめてくる。
「湊……最近、顔色悪いよ。本当に、大丈夫?」
「平気だよ。ちょっと疲れが溜まってるだけ」
毎回、そう答えてきた。でも紗希は、もう薄々気づいているのかもしれなかった。
「……無理だけはしないで。本当に、倒れたら嫌だから」
俺は微笑んだ。
「ありがとう。紗希がいてくれるから、頑張れるよ」
それでも、胸の奥では焦りが募っていた。
(今度の全国大会が終わったら……もう限界が来るかもしれない)
*
夜、布団の中。
静まり返った部屋に、機械音のように自分の心臓の音が鳴り続けていた。
(……怖いな)
普段は平然を装ってきたけれど、本当は誰よりも恐れていた。
(もうすぐ、この時間も終わるんだ——)
けれど、その恐怖すらも、ステージに立つことで紛らわせてきた。
音楽が、俺を生かしてくれている。
全国大会——それが、俺の最後の舞台になるかもしれないと、薄々感じていた——。
*
そして——全国大会当日。
巨大なホールの前に立ち、俺たちはそのスケールに圧倒されていた。
「……すげぇな」
真が思わず呟く。
観客席は何千人も入る巨大ホール。
「緊張してきた……」
紗希も小さく肩を震わせている。
けれど——俺の中は静かだった。
「大丈夫。ここまで来たんだ。俺たちらしく、全部出し切ろう」
紗希が俺の言葉にうなずき、そっと手を握ってくる。
「湊……ありがとう」
真も大きく深呼吸して笑った。
「よし、最後まで暴れようぜ!」
*
控室の待機時間——
俺はそっとスマホを開いた。
グループチャットには、クラスメイトや先生、家族、そして町の仲間たちからの応援メッセージが溢れていた。
【湊、頑張れ!】
【みんな応援してるぞ!】
【最後まで楽しんでこい!】
画面を見ながら、目頭がじわりと熱くなる。
(ありがとう……全部、背負って歌うよ)
*
いよいよ出番が告げられた。
ホールの奥から、司会の声が響く。
『続いては——熊本代表、FIRE FLAME!!』
観客席から大きな拍手が沸き起こる。
「行こう」
「おう!」
「……うん!」
ステージのライトに包まれながら、俺たちはゆっくりと歩き出した——。