結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない


住宅街をゆっくり走っていたはずなのに、運転手が急ブレーキをかけた。
もともと早瀬電子にいた運転手の井上(いのうえ)は、いつも安全運転だ。
車の中でも仕事をすることが多い湊斗は、井上以上に任せられる運転手はいないと思っていたから驚いた。

何事かと外を見ると、湊斗の目の前で男の子を抱えた女性がクルリと一回転するのが見えた。
まるで映画のスローモーションを見ているような感覚だった。

女性が起き上がると同時に、男の子は「ママ~」といって駆けていく。

その時になって、やっと湊斗にもわかった。
湊斗の乗った車が人身事故を起こしそうになったところを、女性に助けられたのだ。

中肉中背。この暑さからか、髪はポニーテールのようにひとつにくくっている。
外見はごく普通の若い女性のようだが、どこにそんな勇気があったのだろう。
かなり危険な行為だったとはいえ、感謝しかない。

そう思っているのに、その日の湊斗は女性に優しい言葉をかけられなかった。
自分で思っていた以上に義母の話がこたえていたらしく、刺々しい精神状態だったようだ。

ケガをしているのではと気になったが、女性は大丈夫だと言い、自分より男の子の心配をして去っていった。

「店長、彼女はいつもああなのかな」

彼女を見送っていたコンビニの店長に、思わず尋ねてしまった。




< 24 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop