結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない




***




湊斗は目の前にいる女性の顔を見つめた。

(井口彩奈)

あの暑い夏の日、男の子を助けてくれた女性だ。
あの頃より髪はうんと短くて、肩先までになっている。服装もカジュアルなものでなく、きちんとしたスーツだ。

だが、その表情だけは同じだった。
穏やかに澄んだ瞳。小さくて形のいい唇。

(忙しくて派遣社員の名前まで見ていなかったな)

このところずっと、アメリカの企業が日本の会社を吸収合併したいという話にかかりきりだったのだ。

「社長も一緒にいかがですか?」

「ああ、いただこう」

一番奥のスペースに座りこむ。ここは足が伸ばせる掘りごたつ式だから楽だった。
まさに隣に彩奈がいて、足が触れそうな位置だ。

(会いたくなかった)

湊斗はそんな感情を顔には出さないよう気をつけて、食事や酒を楽しんだ。

これは自分の中で処理しなくてはいけない問題だ。
周囲の人間、特に彩奈に知られるわけにはいかないのだ。

(彼女が、まさか「あの女」だったとは)

湊斗の脳裏に、義母がわめく「あの女」という声が響いていた。




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