結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない



***



東京に帰ってすぐに、彩奈の毎日は通常に戻った。
父親の手術が終わって退院のめどが立ったらしく、山本室長が休みを取ることもなくなったのだ。
だから湊斗の担当はこれまで通り山本で、彩奈は田頭の補佐だ。

長崎の造船所の仕事が本格的に始動したから、湊斗はますます忙しそうだ。
今回のことで早瀬М&Aパートナーズの評価がいっそう高まって、仕事の依頼も増えてきている。
彩奈でも感じるくらい、会社全体が活気に満ちていた。

その上昇ムードの中で、年末年始の休みに入ることになる。

仕事納めの日、彩奈は秘書室で書類の整理を受け持っていた。
このところ山本たちが忙しかったので、処理できないものがいくつかあった。
やっと指示を受けられたので、午後五時までになんとか片付けたかった。

今日は特別に社員たちは十二時で勤務終了しても構わない決まりになっている。
午後からも秘書室に残っているのは人見主任と彩奈のふたりだけだ。
この休みを利用して、山本室長は都内のホテルで家族サービス、田頭は秋に結婚したばかりの新妻と旅行に出かけるという。

五時を少し過ぎた頃、ひょいと湊斗が秘書室をのぞいた。
たまたま人見主任は席を外していて、彩奈ひとりだ。

「社長!」

とっくに出先から帰ったとばかり思っていたので、彩奈は驚いた。

「お疲れさまです」

あの長崎でのキス以来、ふたりで話すことはほとんどなかった。




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