結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
午後四時を過ぎても、まだまだ暑い。
彩奈がコンビニを出たところで、若い母親が困っているところに出くわした。
どうやら小さな男の子が帽子をかぶらないとごねているようだ。この暑さだから、帽子をかぶったほうがいいはずだ。
母親は肩に大きなバッグもかけているし、手にはショッピングバックを持っている。
これでぐずっている男の子を抱きかかえるのは無理そうだ。
気の毒に思った彩奈が声をかけようとした瞬間、男の子が母親の手を振り切って走りだした。
「危ない!」
この辺りは住宅街だから昼間はほとんど車が通らないが、コンビニは信号のない交差点にあるから見通しが悪い。
黒塗りの乗用車がゆっくりカーブを曲がってくるのが見えた。
考えるより先に、彩奈は飛び出していた。
助けたい一心で、男の子を抱えると体を丸くして反対側に転がった。
「けんちゃん!」
母親の叫び声とブレーキの音が重なった。
彩奈は男の子を胸にギュッと抱きしめたまま、バレーボールの回転レシーブのように動いていた。
中学と高校時代にバレー部にいたけれど、そこまで背が高くない彩奈はレギュラーではなかったので実戦経験はあまりない。
それに何年もやっていなかったから、体のあちこちを道路に打ちつけてしまった。
腕や太ももに痛みはあるが、車と接触はしなくてよかった。なにより男の子は彩奈の腕の中できょとんとしたままだ。
「ママ~」
男の子はニコニコ顔で母親のもとに駆けていく。どうやら一回転したのが面白かったのだろう。
黒塗りの乗用車からは、黒っぽいスーツ姿の男性が降りてきた。
「大丈夫ですか」
「えっと、はい」
立ち上がった彩奈は手や足を動かして見せる。
「大丈夫みたいです」
「よかった」
ハンドルを握っていた男性は、青い顔をしている。白いドライバー手袋をしているから、この車の運転手のようだ。
人身事故を起こしたら、大変なことになっていたはずだ。