結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
「いや。新年くらい静かに迎えたい」
湊斗の言葉通りに受け止めるなら、彩奈とふたりきりということになる。
「どうして……」
彩奈はそれしか言えなかった。
湊斗が早瀬電子の御曹司だということは、社員ならだれでも知っている。
もちろん、彩奈もだ。
わざわざ彩奈を誘ってくるなんて、湊斗の真意がわからない。
キスのあと「すまない」と戯れだったように謝ったのだから、今回も遊び相手として呼ばれたのではと勘ぐってしまった。
「君とふたりで過ごしたい。一緒に来てくれるか?」
車は渋滞に巻き込まれている。
一ミリも動かない社内で、彩奈は湊斗の横顔に見入った。
高い鼻梁、少し角ばった顎のライン、柔らかな茶色がっかった髪。
その整いすぎた横顔が、手を伸ばせば届く位置にある。
彩奈の視線に気がついたのか、ふと湊斗が彩奈の方を向いた。
「恋人として、来てほしい」
その瞳には、はっきりと彩奈だけが映っている。
「恋人」と言われて、ドクンと心臓が飛び跳ねた。
(ああ、この人が好きだ)
外見だけでなく、仕事に対する熱量も、ふとした時に見せる優しさも全部。
「社長とは呼ばないで」
「はい」
「湊斗でいい」
彩奈はゆっくりうなずいた。
ふたりで過ごすということは、それなりに覚悟しなくては。
(恋しい人と過ごせるなら、私は)
湊斗になら、すべて預けられる。その気持ちを込めて、湊斗を見つめる。
「一緒に行きます。湊斗さん」
「ありがとう」
湊斗の微笑みは、彩奈の想い受け取ってくれた証拠に思えた。