結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
部屋に戻ろうかと思っていたら、突然自分の名前が出てきたので彩奈の足がすくんだ。
(梨乃って誰?)
あの女性や梨乃という人は湊斗のなんなのだろう。
これ以上話を聞くのが怖かったが、足が一ミリも動かない。
「お義母さんは相手の名前を知っていたんですね」
「守屋徹を梨乃から奪おうとした憎い女の名まえですもの。口にしたくなかっただけよ!」
徹の名を聞いて、やっと彩奈にもわかった。
両親からも守屋家の弁護士からも聞いていなかったが、徹が結婚した相手が梨乃という名前なのだろう。
「あなたの妹が傷つけられたのに、あなたには人の心はないの?」
「落ち着いてください、お義母さん」
「それとも、梨乃のために愛しているふりをしているだけ?」
あの女性は、湊斗の義母。異母妹が、梨乃。
こんな場面なのに、彩奈はそんなことをぼんやりと考えていた。
「恋人のふりをして、捨てて、思いっきり傷つけてやればいい」
「わかったから、静かにしてくれ」
ふたりはいったい何を話しているのだろう。
愛しているふり、恋人のふり、捨てる、傷つける、どれも彩奈には残酷な言葉だ。
話の内容があまりにもショックだったので、足がガクガクと震えだした。
「あなたは女性の扱いになれているから、本気で落とせばすぐでしょう」
そのあと、湊斗がなんて答えたのかはよく聞こえなかった。
ただ梨乃が湊斗の異母妹だったという事実だけが、彩奈の心にくさびを打ち込んだ。
「とにかく、ホテルまで送ります」
そう聞こえた後、重い玄関のドアが閉まる音がした。