結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
彩奈は重い足取りで応接室に向かった。
ノックしてから中に入ると、湊斗が慌ててソファーに座った。少し離れた位置に、彩奈は立った。
「彩奈」
名前を呼ばれただけで、心が震える。
海里のことを聞かれる前に、彩奈が先に問いかける。
「どうして、ここが?」
なんとか口を開いたが、喉は渇いていないのに声はかすれてしまった。
「東原に聞いた」
やはりと、彩奈は思った。
父は病気が回復しても、医師としては働けない。
新たに井口病院に迎えた院長代理は、湊斗が連れて行ってくれた守屋総合病院で見かけたことのある東原医師だった。
東原医師とはあいさつを交わしたが、彩奈を見ても驚いた様子はなかった。
ずいぶん前のことだから彩奈のことは忘れていると思っていたが、きっと知らないふりをしていたのだろう。
父が診察を受けているあいだ、いつも海里はくっついている。海里は湊斗そっくりだ。
東原医師が気がついたのは海里を見たからとしか思えない
「座ってくれないか」
湊斗とは反対側のソファーに座ったが、どうにも落ち着かない。
近くで見ると、湊斗の顔色がとても悪いのに気がついた。仕事が忙しいだけではなさそうだ。
「あの、」
体調が悪いのではと、彩奈が尋ねようとしたら先に湊斗が話し出した。
「あの日から、ずっと謝りたいと思っていた」
「あの日」
「義母がいきなり別荘にやってきて、大騒ぎをした日だ。きっと嫌な話を聞いてしまったんだろうね」
肯定も否定もしたくなかったので、彩奈は黙っていた。
湊斗は海里のことより先に、過去にけりをつけたいようだ。
「今日初めて知ったんだ」