黒兎の相棒は総長でも止められない

急すぎるよ

その夜。

私はようやく自分の部屋に戻ってきた。

さっきまでのことが嘘みたいに静かな部屋。

でも、胸の奥ではまだドクンドクンと余韻が残ってた。

 

(凪くん…)

(ほんとに助けてくれた…)

 

あの張り詰めた空気。
守られる背中。
優しく撫でられた髪。

思い出すたびに、顔が熱くなる。

 

でも――その余韻は突然、兄からの電話で破られた。

 

「七星」

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

「悪ぃ。今すぐ支度しろ」

 

「え…?」

 

「ちょっとバタバタしてて今日帰れねぇ。さすがに今日の今日で家一人は危ねぇ」

 

兄の声はいつもより低く早口だった。

抗争は、まだ完全には片付いてないらしい。

 

「じゃあ、どうすれば…」

 

「今凪に連絡した。すぐ迎えに行かせるから、今夜はアイツんとこ泊めてもらえ」

 

「……え」

 

一瞬で胸が跳ねた。

 

「だ、大丈夫だよ!私ひとりでも――」

 

「バカ。今はそういう問題じゃねぇだろ。俺がいねぇ間、誰が何するかわかんねぇんだよ」

 

「……」

 

「とにかく。凪がすぐ着く。荷物だけ持って下りろ」

 

そう言い残して通話は切れた。

 

私はスマホを見つめたまま、しばらく動けなかった。

 

(……凪くんの家に…?)

(え、ちょっと待って、ほんとに…?)

 

ドクン、ドクン――

さっきまでの緊張とは違う意味で
心臓が騒ぎ始めていた。
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