黒兎の相棒は総長でも止められない
第4章

高鳴る鼓動

玄関の前。

荷物を抱えたまま、私はずっとドキドキしてた。

 

(ほんとに凪くんの家に泊まるなんて…)

 

ドクン、ドクン――
心臓の音がうるさい。

 

そこに静かなエンジン音が近づいてくる。

黒い車が家の前に静かに停まった。

運転席のドアが開いて、凪くんが降りてくる。

 

「迎え、来た」

 

その言葉だけなのに、やたらドキッとする。

 

「……うん」

 

ぎこちなく頷いて、私は階段を降りる。

凪くんは無言でトランクを開け、荷物を入れてくれる。

 

「乗れ」

 

助手席のドアを開けられ、私は緊張しながら車内へ。

静かにシートベルトを締めると、車はすぐ発進した。

 

街の明かりが流れていく中――

車内はやたら静かだった。

 

(なんか…余計に緊張する…)

 

「……悪かったな。巻き込んじまって」

 

「……ううん、助けてくれてありがとう」

 

「当然だろ」

 

少しだけ口元が緩んだ横顔が見える。

また胸が跳ねる。

 

「でもさ」

凪くんがふっと続ける。

 

「泊まり、嫌なら言えよ?」

 

「……え?」

 

「無理すんなって意味」

 

「だ、大丈夫…」

 

(無理してない…けど…むしろ緊張して死にそう…)

 

そんな私の顔を見た凪くんが、ふっと笑った。

 

「……顔真っ赤」

 

「違うし!!!」

 

「図星」

 

「ちが……う……」

 

顔の熱さはもう限界だった。

 

凪くんは少しだけ口角を上げたまま、低い声で続ける。

 

「ま、安心しろ

手ぇ出したりしねぇから」

 

その一言に、心臓が思い切り跳ねた。

 

「…え、別に…そ、そんなこと思ってないし!」

 

「ほんとに?」

 

凪くんがわざとらしく片手でハンドルを軽く叩いた。

 

「……まぁ。お前がどうしてもって言うなら話は別だけど」

 

「なっ…!!?」

 

顔が一気に熱くなる。

「な、何言ってんの!?バカ!!」

 

凪くんは小さく笑って、また前を向いた。

 

「冗談だって」

 

「ほんっとやめて…!」

 

でも心臓はドクンドクン暴れて止まらない。

このままどんどん、凪くんにペースを崩されていく自分が
怖いのに、嫌じゃなかった。
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