バーテンダーズ - Dance with Cocktails -
俺の名前は谷崎。
30代の後半にさしかかった漫画家だ。
おいしいものを食べ歩いてエッセイ漫画を描いたり、
日常のささやかなしあわせを題材にした四コマ漫画を描いたりして生活している。
- そこ、とってもカジュアルな雰囲気だし。

松本さんのその言葉を鵜呑みにして、
俺は、黒い長そでのロングTシャツに、濃い青のジーンズ、
黒いスニーカー、
丈の短い茶色のジャケットと言ういで立ちで出かけた。
せめてものおしゃれに、
左手首に紫色のスワロフスキー・ビーズの2連のブレスレットをして行った、
の、
だが -

(めっちゃおしゃれじゃん!!)
そのバーは、渋谷駅ハチ公口のスクランブル交差点を渡り、
センター街からわきにちょっと入ったところの雑居ビルの2階にあった。
小さいお店だ。カウンター席が5つしかない。
壁は白く、水彩の田園風景や、手編みらしい赤とピンクのモチーフ、
鉛筆で描いた有名人の人物画など5つの作品が小さな額に入って飾ってあり、
真新しい木製のカウンターの端には、化学の実験で使うフラスコのような形の白い陶器の花器に赤紫色の大振りのダリアが2輪、飾ってあった。
スツールは薄い黒だ。小さな背もたれがついていて、座り心地が良さそうだ。

窓には白いレースペーパーが貼られ、オレンジ色の街の灯りがその模様を透かしていた。
店内はほんのりと明るい。天井を見上げると、スイセンの花を集めたようなシャンデリアが見えた。
カウンターの向こう、正面には、さまざまなお酒のビンが並んだ木製の棚が見える。そのほとんどは、
俺の見たことのない銘柄だった。
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