婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
彼の声に、ほんのわずかに痛みが混じっていた。

それが芝居か本音か、私には分からなかった。

「でも、君はグレイブを選んだ。いや、正しくは、君の父が彼を選ばせたのかもしれないけど」

「それでも、私は後悔していません。彼と共に在ることを、選びましたから」

言葉に迷いはなかった。

だが、その誠実さが彼の胸を刺したようだった。

クリフは視線を逸らし、静かに紅茶をひと口飲んだ。


「アーリン、君は優しい。昔も今も変わらない。だからこそ、もう一度君と向き合いたかった。……私の過ちを、やり直したかったんだ」

その言葉には、かつての誠実なクリフが確かにいた。

私は胸の奥が痛むのを感じた。

けれど、私は騙されない。あの目の奥にある光は、愛ではなく、執着だ。

「……紅茶、お口に合わないかい?」

彼がさりげなく問いかける。

「ええ、大丈夫です。ただ、少し熱いですね」

私はカップを唇に近づけ、ほんのわずかに傾けた。

「甘い……」

クリフが淹れてくれた甘い紅茶に、緊張が解ける。
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