政略結婚から始まる溺愛

1、秘密の血筋

 「瞳、手伝ってくれ。」

 機械の音が鳴り響く工場の片隅で、父の声が飛んできた。

 私は手にしていた伝票を置き、小走りで父のもとへ向かう。

 「なあに? お父さん。」

 私はそう呼ぶけれど、父は血のつながらない義理の父だ。

けれど、そんなことは、もうとっくにどうでもよくなっていた。


 「すまんな、重たい部品を運ぶのに、もう腰がな……。歳には勝てん。」

 苦笑する父の横顔は、少し汗で濡れていて、けれどどこか優しげだった。

頬のシワも、日に焼けた腕も、私の知っている“お父さん”そのものだ。

 「ふふ、仕方ないなぁ。ほら、これでしょ? 一緒に持とう。」

 私は屈んで、大きめの箱に手を添える。

ずっしりと重いけど、嫌じゃない。こうして父の役に立てることが、少し誇らしい。

 「ほんと、お前がいて助かるよ。大学まで出たのに、こんな町工場に残ってくれて……。」

 ふいに父が、ぽつりと呟いた。
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