【シナリオ】恋も未来も、今はまだ練習中。
第1話 出会いと始まり
⚪︎大学の教室・授業終わり/お昼
授業が終わった教室。学生が出ていく中、教授からもらった成績の束を汐梨《長い髪をふわふわに巻いた童顔女子》は机に並べて眺めている。
汐梨(――あぁ、最悪だ)(自分ではちゃんとできたと思っていたのに……)
汐梨「はぁーもう、嫌だ」
(私、梶塚汐梨は福祉学部保育学科に通う大学一年生だ。)
(先日あった大学入学して初めての前期試験。自分なりに頑張ったはずなのに赤点が大漁である)
汐梨が机に頭をつけて唸る。賑やかな教室がほとんど学生が出ていく足音がして顔を上げる。成績の束をかき集めて鞄に突っ込んで教室を出ると菜奈《ショートヘアに高身長でヒールの似合う女子》が駆け寄ってくる。
菜奈「汐梨ちゃん、お疲れ」
汐梨「菜奈ちゃん」
手を振って駆け寄ってきた菜奈は後ろに男子たちを引き連れて来る。
汐梨(今日もモテモテだな)(容姿端麗。成績優秀。優しいし笑顔が可愛い)(これこそ完璧美人)
菜奈「一緒にランチ行こう、汐梨ちゃん」
汐梨は菜奈を見るが後ろの男の子らが空気読めよと言いたげにこちらを見てきている。だが、目の前の菜奈は後ろにいる彼らに気付かずキラキラした笑顔をこちらに見せてくる。
汐梨(こんな顔されたら、頷くしかない)
汐梨「うん、そうだね」
菜奈は嬉しそうに笑い後ろにいた彼らに「ごめんね」と言えば彼らはどこかへ行ってしまった。
⚪︎カフェテリア・ランチ中/昼
定食を食べながら成績表を汐梨は菜奈に見せる。
汐梨はサラダうどん定食【サラダうどん・だし巻き卵・お新香・わかめの味噌汁】
菜奈はチキン南蛮定食【チキン南蛮・雑穀ご飯・冷奴・お新香・わかめの味噌汁】
菜奈「おぉ、見事な赤点だらけだね」
汐梨「そうなんだよ、自分ではできたと思うんだけどー」
汐梨は卵焼きを箸で切って口に入れる。
菜奈「えー……ぜんぶ、当日の実技試験がダメなんだね」
汐梨「うん、昔から苦手なんだよね。練習はできるんだけど、みんなの前だと出来なくなるの」
菜奈「確かに緊張するよね。でも造形の試験はSなんだね。すごい」
菜奈はアイスコーヒーを飲みながら“ふむふむ”と成績表を見ながら言っている。
汐梨「作るのは好きなんだよね、壁面とか作るの楽しいんだよね」
《※壁面…保育室の壁に飾られているイラストなどのこと。そのイラストを見ることで季節の移り変わりを感じるための空間づくりを目的にしている。》
二人、食べ終わり菜奈は成績表を汐梨に返す。汐梨は受け取りリュックにしまう。トレーを持ち返却口に持っていく。食堂のおばちゃんに汐梨・菜奈の順で「ごちそうさまでした〜」と言ってカフェテリアを出た。
⚪︎大学敷地内・移動/昼
汐梨・菜奈並んで歩く。汐梨はリュックを背負っており、菜奈はブランドバックと手提げを腕にぶら下げて持っている。
菜奈「これから汐梨ちゃんは帰り?」
汐梨「十四時から成績不振者の説明会があるんだよ。菜奈ちゃんは?」
菜奈「そうなんだね。私はサークルに顔を出しに行くよ! 彼が練習試合だから見にいくよ」
汐梨「いいねー、青春だねぇ」(菜奈ちゃんは高校の時からテニス部に入っていて今はテニスサークルのマネージャーをしていて、彼氏もテニス部でお似合いの二人だ)
テニス場と講義棟は反対方向のため自販機のある広場の前で菜奈と汐梨は別れる。
⚪︎福祉学部講義E棟・保育室Ⅲ/午後
講義棟にはAからEまで棟がある。棟は、学部別になっており、講義棟A、B、Cが教養学部・D、E棟は福祉学部が使用している。福祉学部の社会福祉学科はD棟、保育学科はE棟。
汐梨はE棟の二階にある保育室Ⅲへと移動する。
保育室Ⅲと書かれている部屋のドアが片方は開いている。閉まっているドアに【追・再試説明会】と書かれた張り紙が貼られている。
汐梨はキョロキョロしながら教室に入る。まだ早いからかそれほど学生はいない。
汐梨(……私一人だったらどうしよう)
汐梨は中に入り学生証提出して担当職員から説明会概要のプリントをもらうと空いている席に座る。席に座り汐梨はプリントを見ると、成績不振教科分の枚数に【追・再試受験願】と見出しにあり教科名が下にある。
汐梨(これ、厚さでいくつ落ちたか分かっちゃうってことだよね?)そう考えながら周りを見る。だけど自由席だからか他の人の枚数まで見えることはなく汐梨は少しだけホッとする。
十四時ぴったりになり、チラホラと席が埋まる。受付をしていた女性職員が前に立つ。だがまだきていない学生がいるようで補助の男性職員がイライラしているのがわかる。
男性職員「また、柴崎か」ボソッと呟くように言う。
一人きていないようだったが、女性職員は説明会を始める。全体の概要と保育学科実技試験の説明を受けていると途中で男子学生が「遅れましたー」と言いながら入ってくる。
職員「柴崎、また遅刻か」
美哉「すみません。困っているおばあちゃんがいたので助けていたら遅くなりました。人助けです」
職員「人助けは良いが、こっちの方が大事だろう? 時間は守りなさい」
美哉「はい、次からは頑張ります」
毎回のやりとりなのか男性職員はため息だけ吐いて会話を終了させる。
説明会は予定通り終わり、職員から受験願と受験料を提出する日にちと提出先を口頭でも言われて説明会は終わる。
職員が出ていくと学生も一斉に出ていく。汐梨はプリントを眺める。ため息をつく。
すると近くから同じタイミングでため息が聞こえてくる。誰もいないと思っていた汐梨は驚く。後ろを見ると、美哉が同じようにプリントを見ている。
美哉「君、一年?」
汐梨「えっ、はい。梶塚汐梨です。保育学科です」頭を軽くさげる。
美哉「俺は、保育学科児童福祉コースの三年。柴崎美哉。よろしくねー」
美哉はさっきはわからなかったが、綺麗な顔をしている。《まつ毛が長く、肌も白い。服はゆるっとパーカーにジーパン、スニーカー。美青年で口調はゆったりとしており少しだけ軽そうな雰囲気》
汐梨(なんかチャラそうな人だな)
美哉「それで、汐梨ちゃんは何に引っかかったの?」
汐梨(いきなりちゃん付け……やっぱりチャラいのかな?)「声楽と器楽と社会的養護内容です」配られたばかりのプリントを見せる。
美哉「実技系がダメなんだ。歌とピアノ」
汐梨はブンブンと頭を縦に振る。
美哉「あとは養護内容ねー。よし、分かった。とっておきの場所に連れて行ってあげるよ」
汐梨「とっておき……?」
美哉「少しはできるようになるかも〜っていう場所!」椅子から立ち上がると汐梨の側に行く。
美哉「さ、立って!」美哉は汐梨の手首を掴む。
汐梨「えっ! せ、先輩!? どこにっ」
美哉はしおりの手首を掴んだまま、止まることなく歩き出す。
汐梨「本当にどこに!?」
美哉「サークル! ね、行こ行こ」
汐梨(すごい強引な人だな)(でも、そんなに嫌じゃない)
汐梨(――これが私と先輩の出会いで、はじまりだった)
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