【シナリオ】恋も未来も、今はまだ練習中。

第13話 このキッチンから、はじまる恋



○夕方・美哉のアパート前/放課後

 初めて訪れる“先輩の家”。
 汐梨は、駅の階段を上がるだけで心臓がバクバクしていた。

汐梨(……まさか、本当に来ることになるなんて)

 手には、小さな保冷バッグ。
 今日は【一緒に夕飯を作る】約束。だけど、
 それ以上の“何か”が起こるんじゃないかって……心が落ち着かない。

 そんなとき、玄関のドアが開いて、美哉が顔を出す。

美哉「よっ。ようこそ、俺の城へ」

汐梨「し、失礼します……」


 

○美哉の部屋・キッチンつきワンルーム

 部屋に入ると、ほのかに柔軟剤の香り。
 整頓された空間に、どこか“らしさ”がにじんでいる。

 木目のダイニングテーブル、観葉植物、間接照明――。
 予想以上に“おしゃれ男子の部屋”に、汐梨はちょっとだけ緊張してしまう。

美哉「そんなに緊張すんなって。……さ、エプロン貸すから着替えて」

汐梨「……あ、ありがとうございます」

 美哉が差し出したのは、ネイビーのエプロン。
 汐梨が首にかけようとすると、後ろから手が伸びてきて――

美哉「はい、結んであげる」

汐梨「っ……! じ、自分でできますっ」

 赤くなって抵抗する汐梨に、美哉は楽しそうに笑った。

美哉「……付き合ってるんだから、これくらい当たり前でしょ?」

汐梨「(な……なんて破壊力……)」


 

○キッチン/調理中

 今日のメニューは、「親子丼」と「豆腐とワカメの味噌汁」。

 包丁を手にする汐梨の横で、美哉は野菜を洗いながら冗談を言っている。

美哉「ところでさ、“親子丼”って名前、ちょっと不穏じゃない?」

汐梨「不穏……って(笑)たしかに……でも、それ言い出したら“他人丼”っていうのもあるし……」

 ふたりで顔を見合わせて笑う。
 そんな何気ない瞬間も、やけに胸がくすぐったい。

 やがて、卵をとじる段になって――

美哉「ちょっと火、強くない?」

汐梨「えっ? あっ、ほんとだ! え、どうしよう、焦げる、焦げる〜!」

 慌てる汐梨の手を、美哉がそっと添える。

美哉「大丈夫、俺が一緒にやるから」

 不器用な両手料理。
 けれど、隣で笑ってくれる人がいるから――。

汐梨(あ、私、いま……すごく幸せかも)


 

○美哉の部屋・ダイニングテーブル/夜

 親子丼と味噌汁、簡単な副菜まで並べられたテーブル。

汐梨「い、いただきますっ」

美哉「いただきまーす」

 ふたりで食べる温かいごはん。
 とろとろの卵、優しい出汁の香り――

汐梨「……なんか、部活のあととかで食べてた味を思い出します」

美哉「青春の味ってやつ?」

汐梨「はい」

美哉「じゃあ、今は……恋の味、だな」

汐梨「~~っ、恥ずかしいこと言わないでくださいっ」

 だけど、隠しきれない。
 今夜の味は、たしかに特別で――。



○夜・美哉の部屋・ソファ/食後

 食後、美哉がいれてくれた紅茶を飲みながら、ふたりでテレビを見る。

 でも、どんな番組だったかなんて、もう覚えていない。
 気づけば、肩がふれて、指先がふれて、心も重なって――

汐梨「せ、先輩……」

美哉「……“先輩”って、まだ呼ぶんだ?」

汐梨「え?」

美哉「彼氏なんだけどなぁ……」

 その低くて甘い声に、体温が一気にあがる。
 そして、美哉は汐梨の髪にそっと触れると、耳もとで囁いた。

美哉「……名前で、呼んでほしいな」

汐梨「……み、みやくん……」

 照れながらも、ふわりと笑った汐梨に、美哉も微笑み返す。

 そして、自然と――ふたりの唇が、触れ合った。


 

○帰り道/夜

 玄関まで送ってくれた美哉。

美哉「また、来ていい?」

汐梨「……はい」

 言ったあとで、ふたり同時に笑い合う。
 夕焼けでも朝焼けでもない、“夜の光”が照らす、ふたりの青春。

 次に会うのが、もう楽しみでしかたない。
< 13 / 15 >

この作品をシェア

pagetop