年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない

実家にいたころは、家族が煩わしくて一人になりたかった。それなのに、家を出てしばらくは、一人の時間が増えたことをうれしく感じていた。しかし、彼と過ごすうちに、一人の時間を寂しいと思うようになったなんて、私もわがままな人間だ。

「いいね、行こうか。どこにする?」
「やっぱり月兎?」
芽衣の返答に、あの日、奏多君に会ったことを思い出してしまい、自分がかなり重症な気がする。

夜十九時ごろの店は、すでに八割ほど席が埋まっていて、私たちはカウンターに腰を下ろした。少し歩いただけで、汗で髪が首筋に張り付くほど暑かった。
「いらっしゃい」
女将さんが冷たいおしぼりを渡してくれ、それがとても気持ちいい。

「先日はバタバタして、ご迷惑をおかけしました」
私がそう言うと、彼女はにっこりと笑っただけだった。奏多君の話題を出さず、なにも言わないのは、隣に芽衣がいるからだろう。
芽衣とは同期で、もう八年来の付き合いだ。

信用しているし、話しても大丈夫だと思うし、彼女には聞いてほしかった。
「なにかあったの?」
芽衣もおしぼりで手を拭きながら、私を見た。
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