年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
家に帰りづらいなんて、彼に話すようなことではない。
そんな私的な事情をぽろりと漏らしてしまった自分に嫌気がさしていたとき、ようやく気がついた。〝遅番ですか?〟と彼は言った。
それは私の仕事を知らなければ出てこない言葉だ。やっぱり私のことをわかっている?
だからと言って、見合いの話を知っているとは限らない。なにを話すべきかわからず、言葉が見つからない。
それに見合いのこととは別に、そもそも少しの気まずさもあった。私は、教育係をしていたころ、彼が自社の御曹司だということは知っていたが、遠慮なく厳しく接していたし、どこか大人ぶった態度を取っていた部分もあった。
しかし、今では彼が機長となり、立場としては私よりもずっと上になっている。そんな人といきなりふたりきりで酒を酌み交わすことになっても、気の利いた言葉など言えない。
視線を泳がせながらグラスに手を伸ばしかけたものの、やはり落ち着かず、グラスには触れずにそっと戻した。
無理だ。そう思った私は考えるのをやめると、彼の方を見た。
「あの、同僚の皆さんと一緒ですよね? 私、失礼します」
「もう帰ろうと思っていたところだったので、大丈夫です」
「そうですか……」