年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
立ち上がりかけたが、「大丈夫」と言われてしまい、私のせいでこんな状況になっているのだからと、再び座り直して手を膝に乗せた。

女将さんがタイミング良くグラスに酒を注いでくれる。

隣に並ぶ鷹野君の存在が妙に気になって、目の前の酒の味がほとんど感じられない。

動揺しているのを悟られないよう、なんとか平静を装いながらも、つい彼の横顔にちらりと視線を向けてしまう。まさか、こんな形で〝連れ〟のように並び、酒を飲むことになるなんて――。

「若林さん、お酒けっこういけるんですね」
不意にそう言われ、私はグラスに目を落とした。名前を呼ばれたことで、彼が私のことを〝覚えていた〟と確信する。
「……私のこと、覚えてたんですか?」
驚きとともに問い返すと、彼は当然だと言わんばかりに、わずかに眉をひそめる。

「当たり前でしょう? 自分の教育担当だった人を忘れるわけがないですよ。それに、今も空港で顔を合わせてますよね」
さらりとそう言って、鷹野君はクスッと笑った。



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