年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
「若林さん、この見合いは自分から断れないって言ったのはどうしてですか?」
「え?」
驚きに声が裏返る。返事を待たずに、少し前を歩いていた鷹野君がくるりと振り返った。
その瞬間、背後の空に浮かぶ満月が、淡い光で彼の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせた。ただそこに立つ彼の姿がやけにきれいで、思わず見とれてしまう。気のせいか、心臓の鼓動が妙に速い。
「……どうしてって」
なんとか声を出したものの、私の反応はあまりにもわざとらしく、自分でも焦るほどだった。
「嫌なら自分から断ってください」
鷹野君の声は低く穏やかだったが、その響きの奥に探るような気配を感じる。私はそっと視線を逸らし、諦めたように口を開いた。
本当のことを伝えれば、きっと彼は同情する。けれど、もはやごまかせるすべもなかった。
「……断れないのよ。私は」
それだけを、なんとか絞り出す。
「どういう意味ですか?」
距離は少し離れているはずなのに、彼の声がやけに近く感じる。私の言葉でなにかを察したのかもしれないが、それでもはっきりと伝えなければならないと思った。