年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない

「映画とか……ただショッピングに出かけるとか? あと、もちろん……仕事はしたいかな」

ぽつり、ぽつりと零れるように口から出たその言葉が、とても些細なもの過ぎて、彼が聞いたことはもっと高尚なことだったかもしれないとハッとする。

「やりたいことっていうほどのことじゃないね。ごめん。……鷹野君はどうなの?」
振り返りながら問いかけると、彼はゆっくりと歩を進め、私を追い越していく。

「タクシーを拾えるところまで歩きましょう」
私に聞いておいて、自分の答えはないの? 
そう思ったものの、言葉にはせず、そっと呑み込んだ。

ちょうどそのとき、彼がわずかに立ち位置をずらした。月の光が鷹野君の表情を照らし出す。
彼がなにを考えているのか、その表情からは読み取れなかった。それでも、どこか穏やかに見える気がして――私は小さく頷くと、彼の横へと歩み寄った。

< 43 / 274 >

この作品をシェア

pagetop