年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない

「……わかった」
そう答えると、彼女は一瞬驚いたように目を瞬かせたあと、にっこりと俺に笑顔を向けた。

「私たちのおすすめのお店でいいですか? どこかリクエストがあれば言ってくださいね」
「まかせるよ」
「じゃあ、行きましょう」
うれしそうな彼女に少しの罪の意識を感じつつも、俺は家とは逆の方へと歩き始めた。

空港から少し離れた小料理屋「月兎」は、空港関係者も多く利用する店で、料理も酒も美味しいと評判だが、ひとりで訪れたことはなく、これまで何度か誘われたときか、歓迎会などの席で来たことがある程度だった。

店に入り、ふと視線を上げた瞬間、カウンターに座る女性の姿が目に入ったのは、あまりにもタイミングが良すぎるとしかいいようがなく、俺はその場に立ち尽くしたまま、しばらく若林さんを無意識に見つめていた。

小さなグラスを手にした彼女は、仕事中のきっちりとした姿とも、幼いころの控えめな笑顔とも違っていた。
どこかアンニュイな雰囲気を漂わせ、酔いのせいか、白い首筋がほんのりと赤く染まっている。

その様子に、周囲の男性客がちらちらと視線を送っているのが気になった。しかし、当の本人は、まるでそれに気づいていないようだった。

連れがいる様子もなく、無防備すぎるその姿に、思わず呟いてしまう。

「……危なっかしいな」

「鷹野機長? なにか言いました?」

隣にいたスタッフの声に、俺は我に返ると「なんでもない」と淡々と答える。
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