年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
でも、それならどうして――。
理由を聞こうと口を開きかけたとき、店の奥から客室乗務員たちが俺を探す声が聞こえてきた。
とりあえずその場を離れようと、俺は彼女とともに店をあとにする。
車を呼ぶこともできた。けれど、なぜかそうせずに、
俺は彼女と並んで、夜の街を歩き始めていた。
「父は私の言葉を聞くことはないの。どれだけ私が見合いはしないと言っても、聞いてもくれないと思う」 淡々とした口調。でも、その言葉には、どこか自嘲のような響きが混ざっていた。
若林さんは父親には反抗できない、そのことはいまの言葉だけでも理解できた。
彼女の父親とは仕事上、何度か顔を合わせたこともある。野心家なのは有名な話で、もしかしたらこの見合いも、彼女自身の意思ではなく、家のために仕方なく受けたものなのかもしれない。