王太子の婚約破棄で逆ところてん式に弾き出された令嬢は腹黒公爵様の掌の上【短編】

 言ってしまった。
 ずっと胸の奥に封じ込めていたのに、もう我慢することができなかった。

 胸の中は、恥ずかしさと情けなさと、アルベルトを愛しいという気持ちで、ぐしゃぐしゃと乱れていた。

 子供の頃から一緒だった第二王子。
 二人で築いた時間は長かった。笑ったり、泣いたり、いたずらをして二人して怒られたり。数え切れないくらいの思い出がいっぱいだった。

 でも今の自分は、王子ではなく、アルベルトに心惹かれている。
 彼のことをもっと知りたいと思うし、もっと一緒にいたいと思っている。もう頭の中は彼でいっぱいなのだ。

 こんなの、本当にただの尻軽女(・・・)だ。

「……」

 アルベルトは少しのあいだ目を見張っていたが、

「それは……軽薄などではないのではないか」

 優しく目を細めてディアナの髪を撫でた。

「えっ……?」

 彼の意外な反応に、彼女はピタリと泣き止む。

(私を非難しないの……?)

 彼はちょっと躊躇する素振りをしてから口を開く。

「現王太子とは、君の中で『家族』になっていたのではないか? 家族は恋愛対象とは違う」

「家族」という単語に、彼女は弾かれたようにはっと我に返る。
 言われてみれば、そうかもしれない。

 ハインリヒとは子供の頃から一緒にいる時間が長くて、もはや両親や兄と同じような愛情(・・・・・・・)を持っている気がする。

 アルベルトは話を続ける。心なしか、少しだけ顔を上気しているように見えた。

「その……。家族への愛情と、異性への愛情は異なるのだと思う。だから……そう思い詰めるな」

 次の瞬間、彼女の顔に光が指した。同時に、ある「事実」にも気付いて、胸がざわざわと波立つ。

 彼女は、本当の気持ちにやっと気付いたのだ。

 そんな彼女に、彼も意を決して正面から向き合った。

「ディアナ嬢。私は初めて会った時から、君のことを――……」


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