王太子の婚約破棄で逆ところてん式に弾き出された令嬢は腹黒公爵様の掌の上【短編】





 その日の午後、アルベルトは部下たちを執務室に呼び出した。
 さっきディアナに噛み付いてきた二人だ。

 彼らを前にした途端、戦場と同じ殺気立った瞳を彼らに向けた。恐怖を帯びた沈黙がみるみる広がっていって、部下たちは縮こまった。

 少しして、公爵は底冷えするような低音で静かに言った。

「お前たちのことは、部下として信頼しているが……」

 彼は一拍置いて部下たちを見やる。
 恐ろしさを伴った静けさが心地悪くて、二人は背中にゾクリと悪寒が走った。

「今後、私の婚約者を傷付けるようなことがあれば容赦はしない。……分かったな?」

「は、はい……!」

「承知いたしました……!」

 辞去が許されると、二人は逃げるように部屋から飛び出した。
 彼らはあの目を知っている。
 あれは、戦場で敵を前にした時の、血に飢えた瞳だ。


「君たち」

 その時、不意に彼らの背後から声がした。
 冷や汗が止まらない中で、唐突のそれに二人は心臓が止まりそうになる。

 恐る恐る振り返ると、そこにはアルベルトの親友で副司令官、そして穏健派のギュンター侯爵が笑顔で二人を眺めていた。

「もしかして、アルベルトに何か言われた?」

「そ、それは……」

 二人が気まずそうに口ごもっていると、

「いやぁ、悪いねぇ〜。アルベルトは長年想い続けていた相手(・・・・・・・・・・・)とやっと結ばれたから、はしゃいでいるんだよ〜。許してやってくれ」

 侯爵はケラケラと笑いながら楽しそうに去っていった。

「そんな、まさか……」

「嘘だろ……」

 取り残された二人は、いつまでも茫然自失と立ち尽くしていた。


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