王太子の婚約破棄で逆ところてん式に弾き出された令嬢は腹黒公爵様の掌の上【短編】
「ディアナ嬢」
そのとき、鋭い声が二人を引き裂いた。
「っ……!」
その声の主は、たちまちディアナをハインリヒから引き剥がす。
「アルベルト公爵……」
彼女は両肩を背後から抱きしめるように、アルベルトから引っ張られた。その手には熱を感じで、ドキリと脈が跳ねる。
「私の婚約者に何か?」
アルベルトがハインリヒをきつく睨み付ける。本来なら不敬な行為だが、彼のあまりの迫力に王子も伯爵令嬢も何も反応できずにいた。
「いや……」
少しの緊張感のあと、王太子は小さく肩を竦めた。
「失敬。……特に何もないよ」
「左様でございますか。私のほうも、声を荒げて大変失礼いたしました。婚約者というものは一番大切な存在ですので……」
アルベルトは落ち着いた声音で言うものの、彼の瞳の奥にはギラついたものが映っていた。
王太子は静かに踵を返す。
一瞬だけ名残惜しそうな視線をディアナに向けたが、すぐに瞳をそらした。
「かなり強く掴まれたようだが、大丈夫か?」
「えぇ……。お気遣い、ありがとうございます問題ございません」
ディアナの心臓はばくばくと大きく波打っていた。
その理由は何なのか、彼女には全く分からなかった。