キスはボルドーに染めて
「陽菜美、一ついいか?」

 しばらくして、蒼生が少し困ったように眉を下げると静かに口を開いた。

「は、はい……」

 やや上ずった声で陽菜美が返事をすると、蒼生は少しだけ照れたように下を向く。


「嫌だったら、突き放してくれて構わないんだ……」

「え?」

 陽菜美には、蒼生が何を言おうとしているのか、全く想像がつかない。

「ただ俺は……」

 見上げた蒼生の頬は赤く染まっている。

「蒼生さん?」

 不思議そうに首を傾げる陽菜美を、抱きしめる腕に力を込めると、蒼生は再び陽菜美にまっすぐな瞳を覗き込ませた。


「俺は今……陽菜美にキスしたいと思ってる」

「……へ?」

 蒼生の言葉に、陽菜美は呆然としてしまう。

 脳内でその言葉の意味がぐるぐると回るが、うまく処理ができない。


 ――キスしたい……? キ、キス……? キ……えぇ!?


 陽菜美は驚きすぎて、まん丸になった目で蒼生を見つめた。

「おかしいよな、こんなの……。でもやっとわかった。俺は陽菜美を、特別に思ってるんだ」
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