キスはボルドーに染めて
 ――これじゃあ、蒼生さんに呆れられちゃう……。


 そんなことが脳裏をかすめた時、陽菜美の身体は咄嗟に差し出された蒼生の腕に、抱き止められていた。


「本当に陽菜美は、はちゃめちゃだな」

 蒼生もヒヤリとしたのだろう。

 陽菜美を離さないようにギュッと抱きしめると、驚いたような顔を覗き込ませた。

 急に蒼生の整った顔が間近に迫り、陽菜美の頬は再び真っ赤になる。


「も、もう、本当に何度もごめんなさい」

 あまりの恥ずかしさと自分の情けなさに、陽菜美は両手で顔を覆った。

 でも蒼生からは、くすりと笑う息づかいが漏れてくる。

「気にするな。俺は陽菜美といると楽しいよ」

「え……?」

 蒼生の優しい声が耳元で聞こえ、そっと手を離した陽菜美は、指のすき間から見えた蒼生の深い瞳に息を止めた。


 ――あぁ、もうだめだ。蒼生さんから、目を逸らせない。


 陽菜美はまるで金縛りにでもあったように、蒼生の腕の中でただただ蒼生の顔を見上げていた。

 静まり返った部屋で、どれだけ見つめ合っていたのだろう。
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