キスはボルドーに染めて
 今日の蒼生のプレゼンは、社内での関心度が高いこともあり、手の空いた社員はどの部署でも参加可能になっている。

 陽菜美が会議室を見渡すと、参加者には上層部だけでなく、杉橋や相談に乗ってくれた女性社員たちもいた。

 ロの字型に並べられたメインテーブルには専務や部長クラスの社員が座り、その周りの椅子には他の社員が腰をかけている。

 ふと杉橋がガッツポーズを送っているのに気がついて、陽菜美はくすりと肩を揺らした。


 陽菜美はスクリーンの脇に待機すると、演台で準備をしている蒼生の様子をそっと伺う。

 蒼生は落ち着いた顔つきでスライドの準備を整えると、美智世の到着を待っているようだった。


「社長、お見えになりませんね……」

 開始時刻を大幅に過ぎた頃、陽菜美は腕時計を確認しながら蒼生の隣に寄る。

「もう少し待ってみよう」

 そわそわとする陽菜美とは違い、蒼生は落ち着いた様子だ。

 陽菜美は蒼生にうなずくと、皆が雑談をしている会場の中を見渡す。

 するとふと陽菜美の耳に、近くの席に座る部長たちの会話が聞こえてきた。
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