キスはボルドーに染めて
「社長きませんなぁ? 今朝もひどく機嫌が悪かったですからな」

「あぁ、あれでしょう? 芸能人の不倫騒ぎ」

「そうそう、社長はあの手の話に敏感ですからな」

「そういや、愛人と蒸発した美智世社長の旦那さんは、まだ行方知れずなんだろう?」

 苦笑する部長たちの話を、なんの気なしに聞いていた陽菜美は、驚いたように小さく目を開く。


 ――旦那さんが、愛人と蒸発……? だから私の話に、あんなに嫌悪感いっぱいだったの?


 陽菜美が小さく息を吸った時、ガタンと大きな音を立てて入り口の扉が開いた。

 予想通り、酷く機嫌が悪い様子で会議室に入って来たのは、オフホワイトのスーツに身を包んだ美智世だ。

 美智世が現れた途端、会議室内の空気が一気に張り詰めたものに変わる。

 美智世はゆっくりと会議室内を進むと、演台に立つ蒼生の前で立ち止まった。


「蒼生さん、一ついいかしら?」

 美智世は、口元を扇子で隠しながら、チラッと蒼生の隣に立つ陽菜美に目を向ける。
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