キスはボルドーに染めて
 蒼生は陽菜美に気がつくと、にっこりとほほ笑みながら軽く手を上げる。


 ――蒼生さんの笑顔だ……。あぁ、本当に無事にうまく行ったんだ。


 陽菜美は蒼生に笑顔を返すと、小さくうなずいた。


「あっ! 今、蒼生さんとアイコンタクトしてたでしょう!」

 すると急に女性社員のひとりが、陽菜美の前に顔を覗き込ませる。

「そうそう! 私も気になってたんだよねぇ。二人はどういう関係なの?」

「まさか、もう付き合ってるとか!?」

 きゃあきゃあ騒ぎだす女性社員たちに、陽菜美はたじたじになってしまうが、皆の騒ぎは収まらない。


「な、何もありませんから!」

 陽菜美はそう叫ぶと、ヒートアップしだした皆から逃げるように、慌てて荷物を抱えて会議室を飛び出した。

 まさか蒼生にキスしたいと言われただなんて、知られたら大変なことになる。


「あ、逃げたな!」

「今日のランチで徹底的に聞いちゃうからね!」

 皆は完全に楽しんでいるのか、陽菜美の後に続くように会議室を飛び出して来た。

 廊下をパタパタと早足で進みながら、陽菜美は思わずぷっと吹き出す。


 ――私やっと、この会社の一員になれたんだ。


 陽菜美は充実した顔を上げると、追いついた皆と肩を寄せ合って笑い声を立てた。
< 123 / 230 >

この作品をシェア

pagetop