キスはボルドーに染めて
 バタバタと足音を立てながら、陽菜美を先頭に皆が会議室を出て行く。

 急にシーンと静かになった室内で、蒼生は杉橋と顔を見合わせると、あははと声を出して笑った。

「さっすが陽菜美ちゃんだね。いつの間にか、他部署の社員とも打ち解けてる」

 杉橋はよほどおかしかったのか、お腹を抱えてまだ肩を揺らしている。

「あぁ、俺も驚いたよ」

 蒼生は小さく肩をすくめると、近くの椅子を引いて腰を下ろした。


「それにしてもプレゼンは大成功だったね。まさか蒼生が、あんな案を出してくるとは思わなかった。俺には全然思いつかなかったなぁ」

 杉橋は蒼生の隣に腰かけると、お手上げという様子で、軽く両手を上に向ける。

 蒼生はそんな杉橋にくすりと笑った。

「まぁあの企画は、俺の案も入ってるが、半分は陽菜美の案なんだよ」

「陽菜美ちゃんの?」

「あぁ、だからこそ、プレゼンをつぶすわけにはいかなかったのにな……」

 蒼生は静かにそう言うと、小さく拳を握り締める。


 美智世が入って来て早々、陽菜美を(おとし)めるような発言をした時、蒼生はめまいに襲われるほどの怒りを感じていた。

 自分が(けな)されることより、陽菜美を馬鹿にした目で見られることの方が苦しいと、痛いほどわかったのだ。
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