キスはボルドーに染めて
 好きな人にこんなことを言われて、嬉しくない人がいるはずがない。

「わ、私は今夜……」

 陽菜美はドキドキと、駆け足になっている鼓動を抑えるように声を出す。

「今夜?」

 蒼生が再び、整った顔を目の前に覗き込ませた。

 陽菜美はぎゅっと目を閉じると、えいっと蒼生に顔を向ける。


「私は今夜、蒼生さんとどうこうするつもりです!」

 勢いで言ってしまってから、途端に陽菜美を恥ずかしさが襲う。


 ――私、なんてこと言っちゃったんだろう。


 いくら蒼生と気持ちが通じたからと言って、普段の陽菜美からは想像もつかない大胆さだ。

 陽菜美は思わず両手で顔を覆う。

 でもしばらくして、うつむく陽菜美の隣から、くくくと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「じゃあ今すぐ、ここを出なきゃいけないな」

 蒼生はそう言うと、驚いて顔を上げた陽菜美の手を優しくとる。

 その手は広くて温かく、陽菜美を守り包み込んでくれる手だ。


 ――あぁ、私、蒼生さんになら、すべてを(ゆだ)ねられる……。


 陽菜美は蒼生の真っすぐな瞳をじっと見つめながら、にっこりとうなずいた。
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