キスはボルドーに染めて
 陽菜美ははっと息を止めると、驚いたようにパッと目を開く。


 ――え……? 今のって……キス……?


 ほんのりと、蒼生のブランデーの香りが残る自分の唇に、そっと指先を当てる。

 すると目の前に、にんまりと悪戯っぽい笑顔を浮かべた蒼生の顔が覗き込んだ。

「やっとキスできた」

 蒼生は楽しそうに肩を揺らすと、何事もなかったかのようにグラスを口に運んでいる。


「も、もう……蒼生さんっ! ここ、お店です……」

 陽菜美は叫び出しそうになるのを必死で押さえながら、コソコソと声を出した。


 ――もう、どうしたらいいの!?


 陽菜美は全身が熱くておかしくなりそうだ。

 すると一人でワタワタと動揺する陽菜美の肩を、蒼生の長い腕がそっと抱きしめる。


「それは、店じゃなければ良いってことか?」

 陽菜美は心臓をドキリとさせると、耳元でささやく蒼生の顔を上目づかいで見上げた。

「そ、それは……」

 どぎまぎとする陽菜美を見ながら、蒼生はわざとらしく少し困ったような顔を見せる。

「陽菜美。俺は今夜、君を帰せないと思う」

 眉を下げる蒼生の様子に、陽菜美の心は完全にノックアウトされてしまった。
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