キスはボルドーに染めて
「どうかしたか?」

 陽菜美の視線に気がついたのか、蒼生がこちらを向く。

「いいえ」

 陽菜美が頬を染めながら小さく首を振ると、蒼生は顔を覗き込ませて陽菜美にキスをした。

 蒼生のキスは何度も重なり、次第に深くなっていく。

 思わず熱い吐息が漏れた時、陽菜美は慌ててそっと唇を離した。


「あ、蒼生さん……ここ、タクシーの中です……」

 陽菜美はそう言うと、真っ赤になった顔をうつ向かせる。

 そんな陽菜美に蒼生がくすりと肩を揺らした頃、大通りを進んでいた車が、左にウインカーを出して停車した。

 どうも目の前には高層階のマンションが見える。


「俺の部屋があるマンションだよ」

 蒼生はそう言うと、手早く会計を済ませて、陽菜美の手を引きながら車を降りた。

 もう深夜に近い時刻だからか、マンションのエントランスは物音ひとつせず静まり返っている。

 コツコツと陽菜美のヒールの音が、白い大理石のエントランスに、やけに大きく反響した。
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