キスはボルドーに染めて
「何か知ってるのか?」

「いえ、何があったのかは知りません。ただ三年前、急に蒼生さんがOTOWineに入社することになった、という話は皆さんから聞きました」

 陽菜美の声に、蒼生は「そうか」と小さくつぶやくように言うと口を閉ざす。

 しばらくして、蒼生は何かを決心したように顔を上げた。


「俺の問題が解決したら、陽菜美に言いたいことがある。それまで待っていてくれるか?」

 蒼生のいつになく低く真剣な声に、陽菜美は瞳を小さく揺らす。

 蒼生が抱えているものが何なのか、それが解決した暁に陽菜美に何を言おうとしていてるのか、全く想像もつかない。

 それでも陽菜美には“蒼生を信じる”という選択肢以外、選ぶ気がないことぐらい、自分でもわかりきっていた。


 陽菜美は蒼生の手をぎゅっと握ると、大きくこくりと首を縦に振る。

「私はいつだって、蒼生さんを信じて待っています」

 陽菜美の力強い声はまっすぐに蒼生へと届く。

「ありがとう、陽菜美」

 蒼生は立ち上がると、力いっぱい陽菜美を抱きしめたのだ。
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