キスはボルドーに染めて
「あの、何か」

 すると声を出そうとした陽菜美を遮るように、純玲がにっこりと口元を引き上げる。


「蒼生って、結構情熱的でしょう? ベッドの上だと」

「え……?」

「キスも上手だし」

 純玲はそっと自分の唇に指先で触れると、冷たく陽菜美から視線を逸らした。


 ――なに……? この人は、何を言っているの……?


 一瞬頭が真っ白になった陽菜美の全身を、ドクンと激しい動悸が襲う。

 次の瞬間、言われた言葉の意味すら考えが追いつかないまま、陽菜美は逃げ出すように部屋を飛び出していた。


「どういうこと……?」

 陽菜美は逃げ込むように入った給湯室で、壁に縋りつくように倒れ込む。

 純玲は蒼生の兄の妻だ。

 それなのに、まるで蒼生と自分が、過去に関係があったかのような発言を陽菜美にぶつけた。

 自分の子供が、蒼生に似ているとまで言ったのだ。


 陽菜美はドクドクと全身の血が震えて、思わず吐き気すら感じる身体を、ぎゅっと両手で押さえこむ。

「なんだか、ものすごく怖い……」

 純玲が何を考えているのかわからない。

 でも、とてつもなく嫌な予感が、陽菜美を覆いつくしていた。
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