キスはボルドーに染めて
「まだ、続いているの。三年前のあの日から……蒼生なら、わかるでしょう?」

 純玲は蒼生のスーツの胸ポケットに、そっと小さな紙をさし込むと、固まったように動けない蒼生の耳元に顔を近づける。

「待ってるわ、蒼生」

 ささやくように声を出した純玲は、怪しく口元を引き上げると、蒼生の隣で佇む陽菜美に目を向けた。

「お茶はまた今度いただくことにするわね、秘書さん」

 純玲はくるりと背を向けると、楽しそうにぴょんぴょんと跳ねる結翔の手を握って部屋を後にする。


 純玲が出て行った給湯室には、途端に静寂が訪れ、給茶機のジーッという音だけが、やけに大きく耳に響いた。

「蒼生さん……」

 不安に押しつぶされそうになった陽菜美が、今にも泣きそうな顔を上げると、蒼生は何も言わずに陽菜美をぐっと抱き寄せる。

 次第に強くなる蒼生の腕の中で、陽菜美も蒼生の背に回した手にぎゅっと力を込めた。

 でもいくら抱きしめ合っていても、いつか蒼生を失ってしまうのではないかという不安が、陽菜美を覆いつくして離さなかった。
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