キスはボルドーに染めて
 そしてもう一つ、陽菜美の知らない過去に、二人が関係していたということも事実なのだろう。

 陽菜美はズキズキと痛む胸をぎゅっと掴む。


 ――三年前、二人に何があったの……?


 陽菜美が耐え切れず深く息をついた時、陽菜美の目の前の電話が鳴った。

 点滅するランプは、外線電話を指している。

「はい、OTOWine経営企画室です……」

 やや強張った声で陽菜美が受話器を取ると、相手はOTOWAホールディングスの秘書課の女性だった。

 蒼生に代わるように言われ、陽菜美は戸惑いながら電話を取り次ぐ。


「わかりました。では1時間後に……」

 しばらくして、蒼生の低い声が静かな室内に響いた。

 でもその顔つきには、明らかに困惑している様子が伺える。

 不安になった陽菜美が蒼生のデスクに寄ると、蒼生は受話器を置きながら小さく息を吐いた。


「父親が呼んでいるらしい」

「お父さまが……?」

「とにかく至急来いと言っている」

「それって、昼間の事と関係が……?」

 陽菜美は唇を震えさせながら声をだす。

「わからない」

 蒼生は静かに首を横に振った。
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